上質な香木は“水に沈む”

私たちが扱う天然香料の中で大変貴重な香木“沈水香木”というものがあります。水に沈むほど比重が重いためその名前が付けられました。“沈水香木”は略され沈香（じんこう）や沈水（じんすい）と呼ばれています。沈香の中でも上質なものほど比重が大きく、水に沈むと言われ、その稀少性から大変価値の高い原料となります。

自然の作用で、永い年月をかけて生まれる沈水香木

沈水香木はジンチョウゲ科アキラリア属の常緑高木から採取されますが、生木の状態では薫りません。風雨や落雷などで傷ついた木に、気温・湿度・土質やバクテリアの付着など、自然の中でさまざまな条件が重なった際に木が本来持っている抗菌樹脂が沈着し、沈水香木となります。沈水香木は摂氏150℃以上の熱を加えることで芳香を放ち、より上質な芳香を放つものになるには100年以上もの気が遠くなる歳月を要すると言われています。

人々を魅了してきた沈水香木の“薫り”

沈水香木の価値はその稀少性だけではなく、薫じたときの“薫り”にあると言えます。日本にその薫りが伝わったのは、推古3年（西暦595年）。淡路島に流れ着いた流木を薪として焚いたとき、辺り一面に広がった薫りに島民たちは驚き、朝廷に献上し、沈水香として理解されたと日本書紀に記されています。

当時は位の高い人や時の権力者のみが扱える高貴なものとされ、戦国時代には合戦の前に武将が精神を整えるために焚かれるなど、薫りの中に精神性を求める文化も育っていきました。時代時代の権力者を魅了してきたその薫りを言葉で表現することは難しく、焚くことでしかその真髄を味わうことができません。産地や自然環境の差異によっても表情を変えるため、同じ薫りが二つと存在することはなく、同じ1本の木でも、採取する箇所が違えば薫りも異なります。

ICHIKŌ ICHIEの沈香への想い

気候の変化や長く続いてきた乱獲により、近年では良質の沈水香木を入手することが一層難しくなっています。そんな貴重な原材料だからこそ大切に扱い、皆様に喜んでいただける薫り創りを私たちは心がけています。香木と200年以上向き合ってきた経験を活かして皆様に“本物の薫り”を伝えたいという想いから、ICHIKŌ ICHIEのブランドライン【PREMIUM】シリーズは生まれました。

良質な香木を手に入れることは、香りに携わるプロたちのあいだでも難しく、たとえ高価な香木を手に入れることができたとしても、薫りの良さを引き出す焚き方がわからないという場合が多いようです。長年積み重ねられてきた良質な香木の選定や加工、調合によって、香木本来の薫りをお届けする。その技術が、【PREMIUM】シリーズに結実しています。

【PREMIUM】シリーズは、香木の種類による薫りの違いや香木の純粋な薫りを感じていただけるように、単一の香木のみを配合した唯一無二のシリーズです。その香木が無くなれば違う香木を調達するため、限られた数を少しずつ生産しています。

次にお買い求めいただくときは、異なる香木を使用しているかもしれません。それぞれの香木が生成されてきた歳月や自然の雄大さを感じとれる、天然の香木ならではの薫りの違いを楽しめるのが【PREMIUM】シリーズの醍醐味と言えます。