お香の品質を大きく左右する
「乾燥」に、400年目の発明
原料を均一に混ぜて捏ねられ、美しく長さと形を調えられたインセンスのもと。この時点では、まだたくさんの水分を含んでいるため、それを乾燥させるプロセスが大切になります。
実は、インセンスをこの状態のまま、まっすぐに乾かすことは簡単なことではありません。
お香が日本に伝わって、およそ400年。昭和50年代ごろまでは、木の板を使った自然乾燥が主流で、お香を乾かすのに3週間ほどかかっていたといいます。
その途中で反り曲がったり、カビが発生してしまうこともあり、また乾燥が不十分なまま出荷されてしまうと、曲がったり、折れやすかったり、燃焼時間が不安定になったりと、さまざまな不具合が起こっていました。
私たちは、ICHIKŌ ICHIEというブランドが誕生する遙か前から、お香の乾燥にまつわる問題の解消と品質向上に取り組み、革新的な乾燥法を発明しました。「積層乾燥法」と名づけられたその方法は、今では業界のスタンダードになっています。
ミリ単位の隙間もなく、
鮮やかに移し替える
まずは、木の板に並べられたインセンスを、段ボール板へと移し替えます。
段ボールはインセンスの水分を吸収し、乾燥を早めてくれます。経験を積んだ職人による“移し”は、とても鮮やかな手際。均等に並んだインセンスが、その列を乱すことなく、移し替えが進んでいきます。
さらに、定規のような道具を使って、インセンスが隙間なく美しく並ぶように、列を整えていきます。もし隙間が空いたまま乾燥を行ってしまうと、そこが曲がりや不具合につながる可能性があるからです。
空気が張り詰めたような、静かな乾燥準備室のなかに、サッとインセンスを移し替える時の微かな音が響きます。
通気性のよい段ボールの層が、穏やかに乾燥を進めてくれる
段ボールには、水分と一緒に香りも移るため、ICHIKŌ ICHIEではインセンスの種類ごとに専用の段ボール板を用意し、他の香りが混ざらないようにしています。
木の板と比べると吸水性や通気性の良い段ボール。しかし、そのままにしておくと、いつまでも水分を吸収し続けてくれるわけではありません。
そこで段ボール板を層にして重ね、専用の乾燥室で乾燥を促します。段ボールには波形の穴が空いているため、そこに空気を通してあげることで、また吸水性を取り戻し、インセンスの水分は途切れることなく段ボールへと移っていきます。
柔らかくて軽い段ボール板の層は、繊細なインセンスを傷つけることなく包み込み、乾燥は穏やかに進んでいきます。
この「積層乾燥法」が誕生するまでは、新しく乾いた板に何度も人の手で移し替えを行うため、設置場所も労力も、今の数倍が必要とされていました。今ではこの方法によって乾燥期間は3週間から3日間に短縮され、乾燥のプロセスが安定することで、お香の品質向上にも大きく貢献しています。
品質の良いインセンスを、安定してお届けできるようになるまでには、先人たちの創意工夫と、より良いものづくりへの探究の歴史がありました。